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ゴールデン・バットじけん

ゴールデン・バット事件

海野 十三

「新青年」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页

青空文庫

誰か壁の蔭に隠れていたような気がした。私は裏口の方は放って置いて、その影を追い駈けた。

露地をつきぬけると、また細い路地がずッと長く三方に続いていた。私は素早く三つの道を透かしてみたが、猫の子一匹、眼に入らなかった。

気の迷いだったかしら、と私はアパートの裏口へ引返した。ハンドルに手帛を被せてグッとひねると、ガチャリと外れて扉は内部へ開いた。さてはと思って、充分警戒をしながら、すこしずつ滑りこんだ。ところが入ってみると、上の方で大きなものの暴れるガタンガタンとひどい音だ。呻るような吠えるような声がする――。そこへ突然私の名が呼ばれた。疳高いが、紛れもなく帆村の声だった。

私は階段を駈けあがった。それは三階の廊下だった。薄暗い廊下の真中に、帆村は一人の男を組み敷いたところだった。

その頃、やっと部屋部屋の扉が開いて、中から人影が注意深く、こっちを覗きだした。

「一体どうしたんです」

そういって近づいたのは、このアパートの番人と名乗る五十がらみの肥えた男だった。寝衣の上に太い帯をしめ、向う鉢巻に、長い棒を持っていた。

「これは事件の部屋から逃げ出した男です」