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ゴールデン・バットじけん

ゴールデン・バット事件

海野 十三

「新青年」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,946 字 · 46 页

青空文庫

唯、隅っこの席へ行ってドカリと腰を下ろす。そこは彼のために、いつも取って置きの場所だった。そこで彼は悠々と一本の煙草を取り出す。するとまた大騒ぎである。十人ばかりの女が誰一人のこらず、てんでに帯の間から燐寸を出し、シュッと火をつける。まるで燐寸すり競争をやっているようなものだ。莫迦莫迦しくて見ていられない。

「ばか、ばか、煙草が燃えてしまうじゃないか」

そのとき金は、ほんの微かにニコついて、煙草の火をつける。彼がフーッと煙を吹き出すと女どもは、身体を蛇のようにねじらせて、

「ねェ、ねェ」「ねえッたら、ねェ」

と鼻声をあげる。そこで金は、懐中をさぐって、卓子の上へポーンと煙草の函を投げだす。わーッというので、女どもはその函をひったくって(それは大抵、あの君江の手に入るのが例だ)、ひったくった女が、子供に菓子を分けるように、朋輩どもの手に一本ずつ握らせてやる。貰った方では、その金青年お流れの煙草に、パッと火をつけて貪るように吸って、黄色い声をあげる。

左様に豪勢な(併し不思議な)人気を背負っている金青年の心は一体誰の上にあったかというと、それは君江の上にあった。