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サラダのなぞ
サラダの謎
中谷 宇吉郎
「あまカラ」1960(昭和35)年1月5日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,780 字 · 6 页
キングス・カレッジの地下室で、一日中神にこたえる高真空の実験に気を張りつめ、くたくたになって帰って来る。そういうときには、肉類よりも、まずこのサラダに手が出るのであった。
それと今一つは、当時の日本の経済状態も、一つの要因をなしていた。清浄野菜などは夢にも考えられなかった時代のことである。寄生虫の心配なしに、生の野菜がばりばり食べられるということで、何だか別の世界へ来たような気がしていた。
実験の都合で、まれには午後早く帰ることもあった。そういうときに、或る日のこと、台所へちょっと顔を出したことがある。そしたらその夫人が、晩餐のサラダをせっせとつくっていた。レタスは手でちぎらなければならないような料理学の初歩を、そのとき初めて知った。
それよりも不思議だったのは、レタスを木鉢に一杯入れたあと、何か石鹸のかけらみたようなものを、パンの切れはしにこすりつけて、それをサラダの中に入れたことであった。そういえば、毎晩の食卓で、サラダ鉢の中に、パンの切れはしがはいっていたが、これは皿にはつけないものであった。何かあのおまじないが、サラダをおいしくするこつのように思われて仕方がなかった。