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ジロリのおんな

ジロリの女

坂口 安吾

前半「文藝春秋 第二六巻第四号」1948(昭和23)年4月1日、後半「別冊文藝春秋 第六輯」1948(昭和23)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 51,597 字 · 102 页

青空文庫

社にいると大浦博士がやってくる怖れがあるから、ヤス子を誘いだして、

「実は、ヤス子さん、お願いがあるのですが、あすの旅行に欠席してもらいたいのです」

こう、きりだしておいて、私も意を決し、計略を立てゝきたのであるから、ヤス子を近郊の温泉旅館へ案内して、昼食をたべた。

こういうことは、ハズミというもので、だいたい色事はそんなものだ。衣子に別れる。すぐその足で別の女を口説きたくなる。これがハズミで、変に度胸のこもった決意がかたまるものである。

まア落付いて話しましょう。こゝはつまり、鉱泉といったって、実はアイビキ旅館ですがね、これも後学のためですよ、などゝヤス子を案内してきたが、ヤス子は平然たるものであるが、テーブルに向いあってキチンと坐って、いさゝかも油断なく、厳然古武士のような正座である。私は遠慮なくくつろいで、お酒をのんだ。

「さて、先刻の話ですが、この旅行、なぜ欠席していたゞきたいか、実は大浦先生のコンタンが癪にさわるからなんです。もちろん、おわかりのことでしょうが、大浦先生の目的は、失踪者の捜査じゃなくて、ヤス子さん、あなたがお目当なんですな」