轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
辻村伊助『スウィス日記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:スウィス日記、続スウィス日記(千九百二十三年稿)。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 页
春の水は、ゆるくめぐるカナールグランデの、水楼に暮らした幾日の、水の香につつまれて、ふと眼をさます暁方も、または、アヴェ・マリヤの鐘の音に、静かに暮れてゆく夕方も、今、眼を閉じて想えば、涙の滲むほど、なつかしくはあるが。
こうして、大正三年の四月十四日となった。春の話は次第に山に近づいてゆく。
私が、あの朝ゴンドラで、ピヤツェッタから、磯臭いカナールの水に浮かんで、フェロヴィアリヤの停車場へ行ったのが、九時過ぎであったから、シルミオーネ Sirmione の小島のかげに白帆の眠った、ガルダの湖ぎしをまわって、ヴェローナに着いたのは、ちょうど昼ごろであったろう。ガルダの水はなめらかにうす霞んで、若草の牧に、崩れのこる城跡をかこむ落葉松や、その草原を、うねうねとのたくる小川の水に沿うた、ポプラの緑の間は、スモモの花が仄白く咲いて、そのやわらかな、春の野を前景にして、眼の及ぶかぎりはティロール境の山々が、あると思えばうっすらと、氷の嶺が、のどかに包む霞よりは、やや白く浮き出していた。
私はそのまま、ミラノを素通りにして、ルツェルン・エキスプレッスに乗りかえると、このコモまで来てしまった。