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スウィスにっき

スウィス日記

辻村 伊助

辻村伊助『スウィス日記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:スウィス日記、続スウィス日記(千九百二十三年稿)。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 页

青空文庫

羅馬のラクス・ラリウス Lacus Larius はコモの湖で、イル・ラリヨ Il Lario とも呼ばれておる。アルピ Alpi の、南をめぐる北イタリヤの湖水のうちで、殊に美しいと称えられるこの湖は、北は一つ、南は、右ひだりに枝分れして、ちょうど、琴柱の形をしている、そのまんなかにはさまれた岬はヴェラージオで、コモの町は、西南端で、ミラノからとっつきにあたる。

町に着いたのはまだ日の高い頃で、うら寒い風に吹かれて、白樺の若葉のそよぐ、山また山の折り重なった脚もとに、ぴかっと光るみずうみを瞰下ろした時、今まで、南欧の旅に見ることもできなかったなつかしさを、深く感じたのである。迎いに来ていた自動車で、古ぼけた町をぬけて、ピヤッツァ・デル・ドゥオモへ出ると、まもなくグランド・ホテル・プリニウスに着いた。

室がきまると、すぐ窓を明け放してみずうみに対う。コモの町は湖水のとっつきで、両側の山が急にせまって、水は池のように、ちいさく入り込んだ、南の端を見るだけで、何だか鼻がつかえるような気がしたが、その、冬枯の木立もまじる山の裾に、雪の象徴とおもう白樺の幹の、まともに、雲透きの夕日をうけた美しさ、岸の落葉松には、霧を吹っかけたように柔かく緑が萌えて、水に沿うたヴィルラには、石楠木がもう咲きかけている。