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スウィスにっき
スウィス日記
辻村 伊助
辻村伊助『スウィス日記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:スウィス日記、続スウィス日記(千九百二十三年稿)。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 216,275 字 · 410 页
エンガディン Engadine
葬むられたのである。
「サン・モリッツの夜」はかくして更けてゆく、木の間を漏れる星の光りはいよいよ明らかに、風は死して、雪をめぐらした森の夜は、こうして静かに更けてゆく。
エンガディン Engadine
午前九時三十五分の汽車は、サン・モリッツをはなれると、オーベル・エンガディンの谷を下って、ツューリッヒにむかった。朝空は朗らかに晴れてはいたが、大きな雲の塊りが、東の山あいから止め度なくいくつとなく溢れ出して、谷の晴れ曇りするのが、気の変りやすい人でも見るような気がする。実際、あるときは谷という谷、それを取りまく山という山が、いかにも晴れ晴れしく陽気にはしゃいで、なるほど春はもう山奥まで近づいて来たなとうなずかれるが、ふと何かのきっかけで、急に機嫌をそこねると、「北の国の冬」と云えば、ただその言葉を聞いただけで、すぐに胸に浮かぶような、暗い、陰気な、沈んだ景色に変ってしまう、そして雪のなかに悶えながら、体をもがき、手足を慄わせて、一と足でも明るい日あたりへ出よう出ようとあせっている山毛欅の木立や、自堕落に雪崩の上に寝そべった、白樺の幹などが、いつも何処となく暗い影のつき纏う、山民の佗しい生活を想わせる。