轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页
――
「……お前は持ってるのか」
「…………」
今度はその男が黙っていた。
日本人夫の旅券は一まとめにハゲ小林が持っていて勝手にさせないんだ。
「どっからだ?」
しばらくして対手が訊いた。
「――アルハラの奥だ」
「鉱山か?」
「林業だ」
パッと力を入れて吸殻をプラットホームの土へ投げつけ、縁無眼鏡は靴でそれを丹念に踏みけした。
縁無眼鏡の名は李と云った。
「じゃあ〔四字伏字〕と親類ぶんだハハハハ」
汽車が動いてる間でも、信吉の場席へブラリと李がやって来るようになった。
「ホ。ホ。これだけの石油がウラルから来るようになったんだなア」
引こみ線に止っているタンク型の石油運搬貨車を見て李がひとりで感服することがある。そうかと思うと信吉が窓から日本の十九倍もあるシベリアの広い耕地の果を指して、
「あれ、あげえな機械が動いてる、何だべ」
と叫んだ。
「どれ?」
「ほれ、近眼で駄目か?」
「ああ、トラクターだ。耕作機械だ。近頃ソヴェトじゃあれで耕して蒔くようになったんだ」
「ふーむ。何しろでけえ土地だもんなあ……」
シベリア黒土地方の春を突っきって走る浦塩モスクワ直通列車の、万国寝台車では、ジェネワの国際連盟へ出かける二人の日本人とカナダのソヴェト農業視察団がめいめいの車室でウイスキーをなめている。