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ズラかったしんきち
ズラかった信吉
宮本 百合子
「改造」1931(昭和6)年7~9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页
碌さの家へ電気会社の人が来て線を切って行ったから夜はローソクをつけています。
新井の伯母が裏の川さはまって死んだよ。ゴム工場があんまり熱くて目がくさって、うっかと川さ落ちて死んだそうです。東京新聞さそのことが出ていたそうです。おっちゃんが今朝土間で新井の伯母が川さはまって死んだそうだ。せえってたら玉子集めの六婆さがへって来て、んでも東京新聞さ出たちゅうでねえけ。東京新聞さ書かれたら伯母も成仏すっぺと云ったら、おっちゃんがおっかない顔してコケ! かえられるこつか! と怒りました。
あんちゃとこの爺さま、きのう着物着てげんめん運動でみんなと町さ行ったよ。おら、地蔵でいきあったら婆さまもいっしょに歩いていた。信あんちゃさ手紙書くだ。せえったら、ばさまが気いつけてニンニクかめと云ってくれと云いました。
信あんちゃ、エハガキもっとおくれよ。おらも行ってみてえな」
へん! 生意気云ってらあ。真黒な裸足で末っ子の糸坊を脊負わされて学校へ通っている卯太郎の顔が、ありあり目の前に見えて信吉は苦笑いした。町で、自転車屋に働いてた時分、信吉はよくこっそり卯太郎を自転車の後へのっけて村を一まわりしてやった。