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ズラかったしんきち

ズラかった信吉

宮本 百合子

「改造」1931(昭和6)年7~9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 54,656 字 · 110 页

青空文庫

区の「コムソモールの家」に文盲撲滅の講習会が開かれている。信吉は一晩おきに欠かさず通い、どうやら読めるようになったところだ。

新しい世界が信吉の前へ一層深くひらきかけてる。

オーリャの声だ。

「われわれんところじゃ、随分『機能清掃』がやられてるけれど、まだ消費組合の内じゃ、バタの大きい塊りが頭の黒い鼠にひかれたりするんだ」

信吉は、昨日アグーシャから聞いた話を思い出して云った。

「――『赤いローザ』じゃ工場ん中の女代議員が、消費組合監督の突撃隊をこしらえたそうだぜ」

「……あすこはドダイ女が多いんだ」

「ちょっと!」

オーリャが、のり出して強い美しい目で皆をグルリと見た。

「そういう問題に男と女の区別がある? まして、直接大衆の食糧問題と結びついてるとき、男と女の区別がある?」

「異議なァし! タワーリシチ!」

ヤーシャが半分冗談みたいに、陽気に叫んだ。

「これは、階級的な問題だ。オカミさんだけの問題じゃない。ソヴェト経済の社会化に結びついたプロレタリアート大衆の問題だ――」

が、そこまで云うと急にヤーシャはピタリと口を噤み、顔つきをかえた。真面目な声になって相談するように云った。