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トムきちとほうせき
トム吉と宝石
小川 未明
「日の出 1巻2号」1932(昭和7)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,254 字 · 9 页
遠い、あちらの町の中に、宝石店がありました。
ある日のこと、みすぼらしいふうをした娘がきて、
「これを、どうぞ買っていただきたいのですが。」
といって、小さな紙包みの中から、赤い魚の目のように、美しく光る石のはいった指輪を出してみせました。
ちょうど、主人の留守で、トム吉が手にとってながめますと、これほど、性のいいルビーは、めったに見たことがないと思いましたから、しばらく感心して、掌にのせてながめていました。
娘は、小僧さんが、なんというだろうかと、さも心配そうな顔つきをしていました。
(もし、これが、いい値に売れなかったら、病気の弟をどうしたらいいだろう。そればかりでない、明日から私たちは食べてゆくことができないのだ。)
と、いろいろ思っていたのです。
「この指輪を、どこでお求めでございましたか。」と、トム吉は、たずねました。
すると、娘は、正直にその指輪について話したのです。
「それは、死なれたお母さんが、お祖母さんからもらって、大事になさっていたのを、お亡くなりなされる時分、指からぬいて、これはいい指輪だから、よほどのときでなければ、はなしてはいけないとおっしゃって、私にくださったものです……。