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ドーヴィルものがたり
ドーヴィル物語
岡本 かの子
「経済往来」1933(昭和8)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页
横柄に誂を出した女はそれで落ち付くとまた愚痴に顔を歪め、イベットの事を云い出す。
――あんた、イベットのあの大した服装を見た? ちょいと見は何でも無いようで、あのローズ・ド・ラジェフって色、今までフランスのどんな腕の宜い布地屋でも出せなかった色よ。それをあいつ、何時の間にか着ちまってる、何という魔ものだ。
女は口惜しがる度に小田島を強く小突く。彼は暴戻な肘で撃れる度に、何故かイベットの睫の煙る眼ざしを想出す。
――あんた、後生だから、あの女にだけは惚れないでよ。他の女ならあたし、手伝っても仲をこしらえて上げるから。
なお女の言うところに依るとイベットはまだ年の割に子供である。その癖甘い毒を持って居て彼女に係わる男を大抵麻痺状態に陥れる。男達も始は玩具のつもりで段々親身になり、何でも彼女の云いなりになる。彼女の我儘には困り切り乍ら結局それを悦ぶようになる。そういう男達は大方老人でなかに若い男があっても矢張り彼女を娘の様に可愛がり出す。女は知名の実業家、政治家をその男達のなかに数え、流石にしまいの声は落して、此処でもドーヴィル市長を始め賭博場の重な役員、世界の諸国から賭博に来た金持男達まで殆どイベットに籠絡されて居る、と云う。