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ドーヴィルものがたり

ドーヴィル物語

岡本 かの子

「経済往来」1933(昭和8)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,723 字 · 44 页

青空文庫

――すっかり判ってるのよ。イベットが追付けこの部屋へ来るんでしょ。そしてこの部屋の女王になるんでしょう。その時まであたしがこの部屋に残っていたら、あたしあいつにどんな憎しみを持って居ても、腰元の様に愛想よく使われなけりゃならないから。

小田島は少し驚いた。イベットがこの部屋へ来ることをこの女がどうして知って居るのだろう。

――あたしを追い出すのは、いつもあの花よ。

女は鏡の前の花瓶のゼラニュウムの花を指して斯う云った。この花は、いつもこの女に邂り合せの悪い花であった。この花は、いつもイベットが男に最後のものを許す時、その部屋に飾る花である。この女が持とうとするほどの男が、いつもイベットに行って仕舞う。時々この女からイベットの持とうとする男に魁をしようとしたが、いつも負けた。イベットが故意に負かそうとするので無くても、イベットの変な魅力がこの女を負かす。この女がゼラニュウムの花に持つ恐怖は本能的なものになった。この女はもとイベットと一緒にジャン・パトウの店の姉妹マネキンであった。一緒に乙女倶楽部の会員でもあった――不思議な女同志の運命のかち合せだ。女は今しがた湯から出て鏡の前にゼラニュウムの花を見た。