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ネオンよこちょうさつじんじけん
ネオン横丁殺人事件
海野 十三
「アサヒグラフ」1931(昭和6)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,095 字 · 26 页
わしゃ、すこし酔ってるね」
それは、新宿第一のカフェ街、通称ネオン横丁とよばれる通りだった。氷柱と見えたのは、消えているネオンサインの硝子管だった。これがまだ宵のうちであれば、赤、青、緑の色彩うるわしい暈光が両側の軒並に、さまざまのカフェ名や、渦巻や、風車や、カクテル・グラスの形を縫いだして、このネオン横丁の入口に立ったものは、その絢爛たる空間美に、呀ッと歎声を発せずにはいられない筈である。だが唯今は丑満時をすこし廻った午前四時ちかく、泥のように熟睡しているネオン横丁を、それと見まちがえたのは、あながち帆村荘六が酔っ払っているせいばかりでもなかった。
彼は鉄柱の傍を離れると、なおも蹌踉と歩みを運んで、とうとうネオン横丁をとおり抜け、その辻の薄暗い光の下に暫く佇立していたが、決心がついたのでもあろうか、その儘まっすぐに三越裏の壁ぎわを這うようにつたわり、架空灯があかるく點いているムサシノ館前の十字路の、丁度真ン中まで辿りついたのだった。
「おや、なんだろう……」
夜の静寂を破って、ドターンというような音響が、突然彼の鼓膜をうった。それは急にどんなものがたてた音であると言い当てられない程の、やや鈍い、さまで大きくない音であって、どうやら、彼の背後一二丁のところから響いてきたように思われたのだった。