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バルザックのねまきすがた

バルザックの寝巻姿

吉行 エイスケ

小野クララの筆名で「文芸春秋」昭和4年10月号に掲載。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,606 字 · 27 页

青空文庫

ロダンさんは、お老年のせいもあったのでしょうが、エロチックってことを少しも恐れないようでした。それから妾のポーズをお作りになって、製作台にお立ちになったロダンさんは人格の変った方のように、妾には感じられるのでした。ロダンさんの厳粛な意欲の中で妾は自分の肉体の秘密も感受性もすべてを知られてしまったような恐しい気持になったのです。まるでロダンさんは、妾の肉体に神秘な思想を求める哲学者のように、殆ど狂気に近い熱心さで、妾から眼をお放しにならないのです。妾は抵抗することの出来ない程、精神に疲労をうけて、偶像のようにモデル台に立っていたのですが、それから間もなく気を失ってしまいました。

その翌日ジョージ・佐野は、妾がアウギュスト・ロダン氏のアトリエへ行くことに反対しました。併しいつもの時間になって、オテル・ド・※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)ロンから車がゲエテ街にやってくると、妾は愛人の側から離れて、何者かに魅せられたように車の人になってしまったのです。オテル・ド・※(濁点付き片仮名ヰ、1-7-83)ロンの鉄門が見え出すと妾は佐野の亢奮し、やつれた顔が車窓に映るような気がして、慌てて車内の空隙に現れた心影を妾は払いました。