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パンドラのはこ

パンドラの匣

太宰 治

太宰治『パンドラの匣』。同一底本的分册已合并为一书。收入:パンドラの匣、正義と微笑。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 192,644 字 · 386 页

青空文庫

あの掛け声は、兄さんの説に依れば、工夫自身の、ねむけざましになっているんだそうだ。そう思って聞くと、あの掛け声も、ひどく哀れに聞えて来る。いくら貰っているのかしら?

聖書を読みたくなって来た。こんな、たまらなく、いらいらしている時には、聖書に限るようである。他の本が、みな無味乾燥でひとつも頭にはいって来ない時でも、聖書の言葉だけは、胸にひびく。本当に、たいしたものだ。

いま聖書を取り出して、パッとひらいたら、次のような語句が眼にはいった。

「我は復活なり、生命なり、我を信ずる者は死ぬとも生きん。凡そ生きて我を信ずる者は、永遠に死なざるべし。汝これを信ずるか。」

忘れていた。僕は信ずる事が薄かった。何もかも、おまかせして、今夜は寝よう。僕はこのごろお祈りをさえ怠っていた。

御意の天のごとく、地にも行われん事を。

四月三十日。日曜日。

晴れ。朝十時、兄さんに門口まで見送られて、出発した。握手したかったのだけれど、大袈裟みたいだから、がまんした。一高を受ける時も、R大を受ける時も、こんなに緊張していなかった。R大の時など、その朝になって、はじめてはっと気附いて、あわてて出発したくらいであった。