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ヒルミふじんのれいぞうかばん
ヒルミ夫人の冷蔵鞄
海野 十三
「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页
そして間もなく彼女は百パアセントのヒルミ博士となりきった。
「ハハア、分りました」と、ヒルミ夫人は胸を張り鼻をツンと上にのばしていった。それはヒルミ夫人が診察するとき必ず出す癖であった。「男性て、ほんとにか細くできている者ネ。でもあたしがそれに気がついたからには、もう大丈夫よ。すっかり安心していていいわ。当分毎日注射をしてあげましょう」
ヒルミ夫人が確信をもっていったとおり、萎びたる万吉郎は注射のおかげでメキメキと元気を恢復していった。そして三旬を越えないうちに、婿入りの前よりも、ずっとずっと強き精力の持主とはなっていた。
「治療にかけちゃ、うちのかかあは、なかなか大したもんだ」と、万吉郎は鼻の下を人さし指でグイとこすった。「いやそれよりもかかあのあの口ぶりを真似ていうと、現代の医学は実に跳躍的進歩をとげた――というべきであろうかナ、うふん。とにかくこうなると、俺は現代の医学というものにもっと深い関心を持たなくちゃならんて」
そんなことがあってから後、万吉郎はヒルミ夫人に対し積極的にいろいろの治療をねだったのである。
ヒルミ夫人にとっては、万吉郎は世界の至宝であったから、少々無理なことでも喜んで聞き入れた。