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ヒルミふじんのれいぞうかばん

ヒルミ夫人の冷蔵鞄

海野 十三

「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页

青空文庫

妾の激しく知りたいと思っていたことは、夫として傍に起き伏している一個の男性が、果たして真の万吉郎その人であるかどうかを確めたかったのである。だから妾は、夫の躰をすっかりバラバラに解剖してしまったのだ。

剖検したところによると、それは全く、真の夫万吉郎の躰に相違なかった。いや、万吉郎の躰に相違ないと思うという方がよいかもしれない。いやいやそんな曖昧な云い方はない。それは万吉郎その人以外の何者でもあり得ないのだ。

なぜなれば、その男性の身体は常日頃、妾がかねて確めて置いた夫の特徴を悉く備えていたからである。たとえば内臓にしても、左肺門に病竈のあることや、胃が五センチも下に垂れ下っていることなどを確めた。(夫の外にも同じ顔の同じ年頃の男で、左肺門に病竈があり、胃が五センチも下垂している人があったとしたら、どうであろう? いやそんな人間があろう筈がない。偶然ならば有り得ないこともないが、偶然とは結局有り得ないことなのである。妾はそんな偶然なんて化物に脅かされるほど非科学者ではない!)

妾は思わず、子供のように万歳を叫んだ。愛する夫は、今や完全に妾のものである。