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ヒルミふじんのれいぞうかばん

ヒルミ夫人の冷蔵鞄

海野 十三

「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页

青空文庫

ヒルミ夫人が結婚生活に入ったのが、それから二ヶ月経った後のことだった。

万吉郎という五つも年齢下の男を婿に迎えたわけだが、ヒルミ夫人の見染めただけあって、人形のように顔形のととのった美男子だった。

いずくんぞ知らんというやつで、この万吉郎なるお婿さまこそ実はモニカの千太郎であったのである。

そういうといかにもこじつけ話のように聞えるであろう。いくら千太郎がお婿さまに化けても、顔馴染の警官や、元の仲間の者にあえば、ひとめでモニカの千太郎がうまく化けこんでいやがると気がつくと思うだろうが、なかなかそうはゆかない。今までは顔を見ただけでは全く千太郎と見わけのつかない万吉郎だった。つまり万吉郎なるお婿さまは、モニカの千太郎とは全く別な顔をもっていたのである。千太郎もいい男であつたが、万吉郎の顔は、さらにいい男ぶりであり、しかも顔形は全く別の種類に分類されてしかるべきものだった。

それにも拘らず、万吉郎は千太郎の化けた人間に相違なかったのである。

では、どういうところから、そういう不思議な顔形の違いが起ったのであろうか。その答は簡単である。ヒルミ夫人の特別研究室のうちで、千太郎の顔は新しく万吉郎の顔に修整されてしまったのである。