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ヒルミふじんのれいぞうかばん

ヒルミ夫人の冷蔵鞄

海野 十三

「科学ペン」三省堂、1937(昭和12)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,412 字 · 29 页

青空文庫

実に大胆なるヒルミ夫人の所説だった。というよりは、なんという強い自信であろうといった方がいいかもしれない。

医学博士ヒルミ夫人のいうところに随えば、人間の恰好を変えることなんか訳はないというのだった。ことに、大した面積でもない凸凹した人間の顔などは、粘土細工同様に自由にこね直すことができると断言しているのであった。ヒルミ夫人の門に教を乞う外科医がこのごろ非常な数にのぼっているのも、このような夫人の愕くべき手術効果がそれからそれへと云いつたえられたがためであろう。

ヒルミ夫人が、なぜモニカの千太郎の何処に惹きつけられて花婿に択んだのか、それはまた別の興味ある問題だが、とにかく結果として、千太郎は万吉郎と名乗って、年上のヒルミ夫人のお伽をするようになったのである。

当事者を除いては、誰もこの大秘密を知る者はない。もちろん警察でも、まさか千太郎が顔をすっかり変えて、ヒルミ夫人の花婿に納まっているとは気がつかなかった。そこでこの奇妙な新婦新郎は、誰も知らない秘密に更に快い興奮を加えつつ、翠帳紅閨に枕を並べて比翼連理の語らいに夜の短かさを嘆ずることとはなった。