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ビルディング
ビルディング
夢野 久作
「探偵クラブ」1932(昭和7)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 937 字 · 2 页
巨大な四角いビルディングである。
窓という窓が残らずピッタリと閉め切ってあって、室という室が全然、暗黒を封じている。
その黒い、巨大な、四角い暗黒の一角に、黄色い、細い弦月が引っかかって、ジリ、ジリ、と沈みかかっている時刻である。
私はその暗黒の中心に在る宿直室のベッドの上に長くなって、隣室と境目の壁に頭を向けたまま、タッタ一人でスヤスヤと眠りかけている。
私は疲れている。考える力もないくらい睡むたがっている。
私の意識はグングンと零の方向に近づきつつある。無限の時空の中に無窮の抛物線を描いて落下しつつある。
その時に壁一重向うの室からスヤスヤという寝息が聞こえて来た。私の寝息にピッタリと調子を合せた、私ソックリの寝息の音が……静かに……しずかに……。
……壁一重向うの室にモウ一人の私が寝ているのだ。私の頭の方に頭を向けて、私の寝姿を鏡に映したように正反対の方向に足を伸ばしつつ、スヤスヤと睡りかけているのだ。
……その壁の向うの私も疲れている。考える力もないくらい睡むたがっている。そうしてその意識がグングンと零の方向に近付きつつある。無限の時空の中に、無窮の抛物線を描いて……グングンと……。