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ブイヨン・ドンゾール
ブイヨン・ドンゾール
滝沢 敬一
――十一時の肉の煮出し――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,081 字 · 7 页
いくら牛乳のすきな私でも、一昼夜に大茶碗で八回ものまされるのは大閉口した。冷たいの暖めたの、コーヒーや茶をまぜたのがある。甘かったりさとうを抜いたり(辛いのはなかった)、いや応なしにのまされると、胸がむかむかしてきた。その牛乳も、フランスのようなうまいのではない。土人が下宿に売りにくるバターを見ても、白い脂のかたまりに黄色い粉をまぜ、へらでかきまぜ、ねっていたようなお国柄だ。まさか大蛇や虎のあぶらでもあるまいが眉唾ものだった。
特等室(大日本帝国の栄誉のために下級のサラリーマンでもこんなところに入れられた時代だった)付英国人看護婦は病院きっての美形という評判で、こっちの病人よりはそっちの見舞客のほうが多かったらしい。しかし牛乳にかてて加えて、ひどくにがい薬をのませるのでツラを見るのもいやだった。牛乳は分量が多いし、そうはいかないが、良薬だけは彼女の後姿を見るやいなや、すぐベッドのそばの壁にぶっかけて捨ててしまい、次のミルク・タイムには熱帯のこととて、すっかり乾いてしまうので大助かりだった。この悪事はとうとう大佐殿には知れずにすみ、美人は私の退院をまたず、一陸軍士官のお目にかない、手に手を携えてヒマラヤの山の奥へハネムーンの旅に上ってしまった。