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ボニンとうものがたり
ボニン島物語
久生 十蘭
「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页
強談したような例もあるが、途上の待伏せは、これが最初であった。
訴訟の手代どもは、こうすれば、外聞を恥じ、代金を払うだろうというつもりがあるので、駕籠の左右について走りながら「わずか三両と二分二朱。おねがいにござりまする。なにとぞ、お払いを」と臆面のない高声でやる。お徒士、駕籠廻りはもとより、中間、杖突きのはてまで、みな無念に思うのだが、どうすることもできない。
田中久太夫は、平山行蔵に剣を学び、実用流の奥儀を極めた藩第一の剣士であった。あるとき門弟の一人が賊を斬り、田中を招いて、日頃、お取立てにあずかった手の裏をごらんくだされと自慢顔で披露した。
田中は見るなり不機嫌な面持ちになって、「美しく斬ろうなどと考えると、その隙に逃げられ、落度をとるようなことがある。要は、殺すことが主意なのだから、左手で髻でも掴んで急所を衝けば、かならず一刀のもとに斃すことができる。斬口の美しさを披露するような性根では、上達の見込みがないから、今日かぎり破門する」と叱責したことがあった。
田中久太夫は徒士の御先手で駕籠脇についていたが、あまりの煩しさに、ついとり逆上せ「三両、三両」