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ボニンとうものがたり

ボニン島物語

久生 十蘭

「文藝春秋」1954(昭和29)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,772 字 · 41 页

青空文庫

文政己卯二年十二月

上書を読み終るのを待って、久太夫が深志にいった。

「七尾はともかく、おぬしは産物の諸分に通じているはずだから、おおよその察しはついたろう」

深志は暗い眼つきで、なにか考えていたが、「大方は知れた。船主舟子とも、おおよそ十人もの命を奪ったうえは、腹くらい切らねば相済まぬところだ」と投げだすようにいった。

「どうして、それがわかった」

「長崎で船を売ったと書いてあるが、船主舟子には一言も触れていない。渡外禁止は重い掟。外国との商貨の交易は長崎の貨物取衆十人以外には法度だ。そこまで大事をやってのけたら、船主も舟子も、生かしてはおけまい」

「なるほど、よく見た……長い道中の間で、どうにか始末をつけたのだったろう。すんだことだから、それはそれでいいが、公家では、また候、その伝を蒸しかえそうとしている。おぬしらは、この二月に州崎の浜へ流れついた漂民の話を聞いたろう」

駒三郎がいった。

「無人の島で四年ばかり暮らし、この春、上り風に吹き送られて、事なく江戸に帰りついたという、大湊の舟子どものことだろう。鉄砲洲の上邸の揚屋におしこめてあるという話は聞いた」