轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
いまは冷氷庫になってしまったあの膨大な東京座も、その頃新築され、後の方には旧女役者の常小屋の、三崎座という小芝居があった。夏などは東京座や川上座へゆくには、道が暑くてたまらないほど小蔭ひとつない草いきれのしている土地であった。そのくせ、座へはいってしまうと――ことに東京座などはだだっ広いのと入りがなかったので、涼しい風が遠慮がなさすぎるほど吹入って、納涼気分に満ちた芝居小屋であった。川上座は帝劇と有楽座をまぜた造り方であったので、その時分の人たちにはひどく勝手違いのものであったが、開場式に呼ばれたものは川上の手腕に誰れも敬服しあっていた。一千にあまる来賓はすべての階級を網羅し、その視線の悉くそそがれている舞台中央には、劇場主川上音二郎が立って、我国新派劇の沿革から、欧米諸国の劇史を論じ、満場の喝采をあびながら挨拶を終った。その側に立つ奴の悦びはどれほどであったろう。共に労苦を分けた事業の一部は完成し、夫はこれほどの志望を担うに、毫も不足のない器量人であると、日頃の苦悩も忘れ果て、夫の挨拶の辞の終りに共に恭しく頭をさげると、あまりの嬉しさに夢中になっていたために、先日のいきさつから附髷を用いている事なぞは忘れてしまい、音がして頭から落ちたもののあるのに気がつかなかった。