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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
殿様が恋慕していた腰元が不義をして、対手の若侍と並んで刑に処せられようとする三角恋愛に、悪びれずにお手打ちになろうとする女と、助かりたさと恐怖に、目の眩んでいる若侍と、一種独特な人世観を持った殿様とが登場する狂言で、殿様が喜多村緑郎、若侍が花柳章太郎、貞奴が腰元であった。腰元は振袖の白無垢の裾をひいて、水浅黄ちりめんの扱帯を前にたらして、縄にかかって、島田の鬘を重そうに首を垂れていた。しかしその腰元の歩みぶりや、すべての挙止が、あまりにきかぬ気の貞奴まるだしであったのが物足りなかった。何故オフィリヤやデスデモナやトスカや、悄々と敵将の前へ身を投出すヴァンナの、あの幽雅なものごしと可憐さを、自分の生れた国の女性に現せないのだろう、異国の女性に扮するときはあれほど自信のある演出するのにと思った。その幕がおわってから楽屋へ訪れたのであった。
卓にお膳立が出来ていて、空席になっているところがわたしのために設けられた場所であった。貞奴は鏡台をうしろにして中央にいた。すぐそのとなりに福沢さんがいた。御馳走の充分なのに干魚がなければ食べられないといって次の間で焼かせたりした。