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マダムさだやっこ
マダム貞奴
長谷川 時雨
「婦人画報」1920(大正9)年2~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,999 字 · 53 页
男女の愛情はそうはゆかない。譬い表面は何事もなかったおりは、あるいはダイヤモンド、おつきあい、着物、家ぐらいですむかも知れないが、それは悲しい真に貧乏な恋愛で、そんな水準におかれた恋愛で満足している男女がありとすれば、実にお気の毒なものといわなければならない。わたしは言う、感情、感覚、全精神を打込んだ男女恋愛のどん底は魂の交感であり、命の掴みあいである。死と生が其処にあるばかりで何物をもまじえることの出来ない絶対のものであらねばならぬ。
(けれどこの人は、愛するものにとはいわなかった。惚れたという普通軽く言いはなされる言葉をつかった。そこに用意があるのかも知れない。)
と思うとまた貞奴の、先刻の褪めきっていて陶酔しているようなとりなしが目に浮んだ。
では白熱時代の貞奴は?
わたしは急がずに書いてゆこう。四、五年前に京都から来て内幸町の貞奴の家へ草鞋をぬいだ、祇園のある老妓はこう言ったことがある。
「芝居から帰ると二階へあがって、寝る前に白葡萄酒をあがるのえ、わたしもお相伴するわ。それから寝るまで話をします。けれど、川上さんのお位牌には私が毎日拝んでおいてあげます。