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ミス・マシュウのしんしょくぎょう

ミス・マシュウの新職業

岡本 かの子

「三田文学」1932(昭和7)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,921 字 · 6 页

青空文庫

競争に疲れて骨だけになる――。ついに髭の生えた中性の老婆になって慈善病院で死んで行く――囚人の拵えたレデー・メードの柩が待っている。

ミス・マシュウは、父の死骸の傍の闇の中で鼻の下に髭の生えた泥棒姿である自分の将来を幻覚し、びっくりして表へ出た。表には鋪石の嵌め込み硝子の広告板から突き上げ、飾窓の口から吐き、高い広告塔から浴せる光がある。それは嗅ぐべきものとしての香水、見るべきものとしての劇場、飲むべきものとしての酒をほとんど命令的に規定して相手の生活程度如何に係らず自分で自分を押しつける、すこぶるエゴイズムの光ではあるが、いま自分には一番縁の遠いものを意味する光ではあるが、光であることは有難い。闇以外のものであることが有難い。ミス・マシュウは夜の街の広告燈の最も十字光塔である街の四つ角に引き寄せられ、そこで暫らく光の串刺しの上に身体を晒した。

斜向うの売薬店の水銀燈の光が彼女の皮膚を鼓膜のように薄くした。

青い火だ。ぬれた火だ。躍る火だ。廻旋だ。とんぼ返りだ。世の中は、ル、ララ。ル、ララだ。

彼女の頭に「男」がひらめいた。簡単に金をくれる男の姿が。