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メメント モリ

メメント モリ

田辺 元

「信濃教育 第八五八号」1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,397 字 · 19 页

青空文庫

二

それに対して、もし「死の哲学」というべきものが、現在から将来への課題として人類に負わされるとするならば、その最も有力なる手引となるもの禅の悟道に如くはないと思われる。今日西洋において禅に対する関心が一般に高まり、特に、すぐれた哲学者芸術家のそれに対する傾倒の尋常ならざるものがあるのは、一にそのためであろう。私はかねてから「死の哲学」を、自己の要求上私自身に課して来たものであるが、しかしその結果はなお未熟であるばかりでなく、簡短にそれを要約することも容易ではない。他日を期する外ないのである。ただその代りに、みずから同じ課題に力を注がんとせられる人々のために、その手引として禅の公案の一つを紹介し、禅道の見地からよりもむしろ「死の哲学」の手引という立場から、それに解釈を加えて見ようと思うわけである。

二

私の選ぶ公案というのは、碧巌集第五十五則として伝えられて居る道吾一家弔慰という則である。唐代に起ったその話はこういうのである。生死の問題に熱中する若年の僧漸源が、師僧の道吾に随って一檀家の不幸を弔慰したとき、棺を拍って師に「生か死か」と問う、しかし師はただ「生ともいわじ死ともいわじ」