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メメント モリ

メメント モリ

田辺 元

「信濃教育 第八五八号」1958(昭和33)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,397 字 · 19 页

青空文庫

と言うのみであった。けだし漸源の意、もし生ならば弔慰するに及ばず、またもし死ならば弔慰も通ずることなからんという二律背反に悩まされて、師道吾に問をかけたわけであろう。しかし師僧はこれに対しいずれとも明確なる答を与えなかった。そこで漸源更に帰院の途中再び道吾に問い、答えずんば打たんと迫った。しかも道吾依然答を与えなかったので、漸源遂に師を打つ。そののち道吾他界するに及び、漸源は兄弟子にあたる石霜に事のいきさつを語ったところ、石霜もまた不道不道(いわじいわじ)というのみであった。漸源ここに至って始めて、生と死とが互に両立せざるものとして区別せらるるにかかわらず、それを矛盾律に従い、生か死かと判定する能わざるものなること、両者を不可分離の聯関において自覚せる者に対してのみ、その問が意味を有するものなることを悟り、先師道吾が自分の問に答えなかったのは、彼をしてこの理を自ら悟らしめるための慈悲であり、その慈悲いま現に彼にはたらく以上は、道吾はその死にかかわらず彼に対し復活して彼の内に生きるものなることを自覚し、懺悔感謝の業に出でたというのである。

今この公案に哲学の立場から多少の註脚を加えるならば、それの核心というべきものは、生と死といずれも人間の自覚に属し、しかも相関聯するものとしてのみ自覚せらるること、単に外界