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レモンのはなのさくおかへ

レモンの花の咲く丘へ

国枝 史郎

「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页

青空文庫

近頃は大変にソワソワなされます。まるで十七、八の若者が初恋を知った時のように。

領主 (苦笑)それが気まずいと申すのか。

従者 そればかりではござりませぬ。近頃は何彼と疑い深くなられました。これもあの女子のためでござりましょう。

領主 あの女子、あの女子とよく云うが、彼女は決して悪い女ではない。ほんの無邪気な性質で、例えて云って見れば、空を自由にかけたがる白い雲のようなものだ。(少し考え)もっとも、あまり空をかけたがるので、心もち、フワフワとしてはいるが、それが決して、あの女子の美しい容貌と正直の心とを傷つけはしない。

従者 よく存じておりまする。

領主 それではもうよいではないか(とまた窓に向かわんとするを従者は再び引きとめ)、

従者 たとえ、女子の性質はよいと致しましても、お殿様の御性質お振る舞いを近頃のように変えさせますれば、何のためにもなりませぬ。却って悪い性質の女子でも、お殿様の性質を変えぬならば、その女子の方が御身の為また私共の為かと存じます。……一体、あの女子は、どこからお連れなされました。

領主 海の彼方の淋しい浜辺から、(と窓を離れて丸テーブルの傍の寝台の上に腰をおろす)、海の彼方の淋しい浜辺で、消えて行く帆舟の影を泣きながら見送っていた――あの女子が見送っていた。