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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
女子の声 (やや明瞭と)ヨハナーン! ヨハナーン! お歌をよーっく覚えるんですよ!
五色の色の機織り
一日を十年に数え
幾日経にけん。
(ヨハナーンたちまち喜色を顔に浮かべ)
少年 お姉様だ! お姉様だ! あのお声はお姉様のお声だ! 窓の外にお姉様がいらっしゃる。
(と窓に馳せ行き、垂れし黒幕をいっぱいに開く。窓外の光景大きく観客に見ゆ。――塔は空の光に浮き出でて牢獄の如く凄惨として彳み、塔の裾の水門もまた鮮やかなり。その水門の上には影の如き人々一列に並び、その前面には巨人立つ。巨人は灰色の衣の袖を上下して上流の小舟を招く。上流には小舟あり、ゆるゆると水門さして流れ下る。小舟の中にはヨハナーンの姉、白衣に包まれ白き百合の花に飾られて仰臥す。眼は見開けども瞳定まらず、ただ仄明るき空を見るのみ。空には小さき月ありて、雲間断なくこれを掠め、風絶えず雲を吹く。雲を吹くの風はまた塔を吹く、塔には悲愁の叫びあり。――光景憐れに冷ややかなり。
小舟はゆるゆると流れ下り窓の下にて暫漂う)
少年 (窓の格子より両手を差し出し)お姉様がいる、お姉様がいる、お姉様! お姉様! あれ舟へなど乗って何処へ行くの食え お姉様は私と一緒に、いつまでも此処にいると云ったじゃないの。