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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
童 いえ、そのようなお方はお見受け申しませぬ。
領主 (失望し)そんな筈はないのだが。(間)とにかく玄関まで出迎えることにしよう。(領主を先に、従者、童、退場。間もなく玄関にて再び領主万歳の声高く起こり、やがて静まる、三分間静。――正面の口より、二人の使女と共に、海岸より連れられ来し女子現わる。女子は桃色の上衣、白色の袴。金髪。肩と腕とは露出す。美人にして若し。胸の上に深紅の薔薇花をさす。常にこれを気にかく)
使女A 大勢の騎士、音楽家でござりました。
使女B 白い駒に乗り、水浅黄の袍を着け、銅の楯と象牙の笛と、猫目石で象眼した一弦琴を持った二十五、六の音楽家は何んと美しい方ではござりませぬか。
使女A 銀鋲の着いた冑を冠り、緋の袍の上へ、銀と真鍮とで造った腹巻をしめ、濡れ烏よりも黒い髪の毛を右と左の肩に垂らし、それを片手でなぶりなぶり小声で歌を唄うていた二十七、八の騎士の方が、男らしくてようござりました。
使女B だがあのお方の眼は、東洋人の眼のように、瞳も睫毛もまっ黒で、惨酷心のように思われました。
使女A そのようにおっしゃるけれど、貴女の好きな水浅黄の音楽家の方は、口があまり大きすぎ、それにチト肥えすぎていて、何んとなく気品に乏しく見えたではござりませぬか。