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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
公子 その娘が貴女だと申しましても宜しいのでござりますか。
女子 はい、そのおつもりでお聞き下さいまし。
公子 つづまやかな美しさが、その一人娘の彳んだ姿を装飾っていたでござりましょう。
女子 その一人娘の着ていた衣は上衣は桃色で下は純白でござりました。(と自分の着ている衣を見る)その娘は小さい時からこのような色が大好きでござりました。
公子 私もそのような色彩が大好きでござります。
女子 娘の髪の毛は透明に見ゆる程光り輝く黄金色でござりました。(と自分の髪の毛にさわる)その髪の毛を暮れ行く薔薇色の夕日に映しておりました。そこは荒れ果てた浜で、髑髏のような石ばかりが其処にも此処にもころがっておりました。破船の板や丸太や縄切れや、ブリキが岩の間に落ち散り、磯巾着が取りついているのでござります。そして餌をあさりかねた海鳥が、十羽も二十羽も、群れ飛んでいるのでござります。長い翼は日に映り、飛び巡るたびに木をこするような音で鳴き合いました。浜には一人の人もいず、背後の丘を越して風ばかりが吹いておりました。丘には花も咲かず実も熟まず、ただ一面に赤茶けて骨のような石ころが土の裂け目に見えているのでござります。