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レモンのはなのさくおかへ

レモンの花の咲く丘へ

国枝 史郎

「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页

青空文庫

女子 (手を軽く拍ち)ほんにそう云えばその通り、たしかに其処で聞いたに違いない、魔法の光り物のようなあの人の瞳が、私の瞳を引きつけている間に、お歌いなされた歌に相違はない。どうしてお前はそれを知っているの。

使女A 知っているのではござりませぬ。何事でもお嬢様のお心を強くひきつけるいろいろの事件は皆、その人がなされる仕業のように思われますので、それでそう申し上げたまででござります。(女子黙して考える。二人の使女も黙す。月光やや暗くなり、海上に白き影浮かぶ)

女子 白いものが海の上に浮いて見える。音楽堂の下の岩陰からだんだん此方へ動いて来る。

使女A 夜を遊ぶダイヤナと申す水鳥でござります。

女子 ダイヤナにしては形が大きすぎるじゃないか。私にはどうやらあれも、悪い兆のように思われるぞえ。

使女B いいえ、水鳥の列でござります。ダイヤナはよくあのように列を作って夜を海上で遊びます。あれごらん遊ばせ、二三羽羽搏きをしたので水煙が銀砂のようにパット空に昇りました。

女子 いえいえ悪い兆です。どうやら死んだ屍を送って行く柩の舟に見えるじゃないか。

使女A あれまたお嬢様は気味の悪いことをおっしゃります。