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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
噫! 若様のお顔は青褪め果てて、死んで行くべき相となっておりました。
女子 若様!
従者 『若を殺したは誰れぞ!』とお殿様のお怒りとお悲しみの叫び声……一同の騎士、音楽家の方々は、ひれ伏してしまいました。(間)すると若様は青ざめた唇を震わして、聞きとれぬ程の虫の声で、「死に行く人魚」の歌を歌いました。
女子 「死に行く人魚」の歌を!
従者 その歌の一節を歌い終わると、急にお怒りの相を顔に見せ、苦しい声で『盗める曲に何を与う!』と叫んだのでござります。
女子 盗める曲に何を与う。
従者 そして若様は、片手をあげて窓を指し、最後の息でこう申しました。『北の国の魔法使い、「死に行く人魚」の歌を歌う』
女子 若様! ええ、ええ。
従者 後はもう申し上ぐるまでもござりませぬ。堂内の騎士、音楽家は、あるいは窓口に向かって立ち、あるいは高殿に馳せ昇り、外に通ずる廊下に急ぎ、百方怪しい老人の魔法使いをさがしましたが、それらしい者の影もござりませぬ。さがしあぐんで騎士、音楽家の方々が、旧の広間へ立ち戻って来た時には、屍となられた若様をとりかこみ、小供等の大勢が、弔いの歌を歌っておりました。