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レモンのはなのさくおかへ
レモンの花の咲く丘へ
国枝 史郎
「レモンの花の咲く丘へ」東京堂書店、1910(明治43)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 71,016 字 · 142 页
Fなる魔法使い (桂の冠を指し示し)女よ! これを見ろ!
女子 (声を震わせ)ああ、ああ、それは桂の冠!
Fなる魔法使い (無音にて自分の瞳を指す)
女子 (片膝をつき)Fなる魔法使い!
Fなる魔法使い (今度は「暗と血薔薇」の歌を唄う)
暗がわが身をとりかこむ
裸身なれど恥わじ、
抱く男のやわ肌を
燃ゆる瞳にさがさばや。
女子 その歌を歌うは誰れなの?
Fなる魔法使い 血薔薇をお前にくれた男だ。(と「暗と血薔薇」の歌を歌う)
罪が巣くいし血薔薇とて、
恋の生身を刺すとかや、
暗なれば血は見えずして。
(口調ある朗吟的の言葉にて)女よ、窓を通して音楽堂を見ろ! 青い燈火が点いている。お前のために恋を歌った、深山鈴蘭の送り主が、青い燈火の光の裏に、恋の屍を横仆えている。お前はそれが悲しいか。(間)黄昏の神の素足のような、美しく白い公子の肌が、麻の衣にかけ衣された樫の柩の底にある。彫刻の美も光がなければ、女の眼には映るまい。その彫刻の美が柩の中の、堅い床の上にある。(間)女よお前は俺に問うか、「語れ公子を殺せし毒と」(銀の竪琴を見て)毒は白銀の弦より流れ、あふれて彼を死したのだ。