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ウィタ・セクスアリス

ヰタ・セクスアリス

森 鴎外

「昴」1909(明治42)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 58,941 字 · 119 页

青空文庫

その頃の貸本屋の持っていた最も高尚なものは、こんな風な随筆類で、僕のように馬琴京伝の小説を卒業すると、随筆読になるより外ないのである。こんな物の中から何かしら見出しては、例の紺珠に書き留めるのである。

古賀はにやりにやり笑って僕のする事を見ていたが、貞丈雑記を机の下に忍ばせるのを見て、こう云った。

「それは何の本だ」

「貞丈雑記だ」

「何が書いてある」

「この辺には装束の事が書いてある」

「そんな物を読んで何にする」

「何にもするのではない」

「それではつまらんじゃないか」

「そんなら、僕なんぞがこんな学校に這入って学問をするのもつまらんじゃないか。官員になる為めとか、教師になる為めとかいうわけでもあるまい」

「君は卒業しても、官員や教師にはならんのかい」

「そりゃあ、なるかも知れない。しかしそれになる為めに学問をするのではない」

「それでは物を知る為めに学問をする、つまり学問をする為めに学問をするというのだな」

「うむ。まあ、そうだ」

「ふむ。君は面白い小僧だ」

僕は憤然とした。人と始て話をして、おしまいに面白い小僧だは、結末が余り振ってい過ぎる。僕は例の倒三角形の目で相手を睨んだ。