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ひとつのあいじょう

一つの愛情

豊島 与志雄

「新小説」1949(昭和24)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,635 字 · 22 页

青空文庫

留守に御本が着いておりました。うれしくてうれしくて、抱いて頬ずり致しました。

今日はなんだか疲れてぼんやりして、何をする気も致しませぬ。

先生の御事を思い申上げておりますと、なぜかハッとびっくりされて、それから心配な恐ろしい淋しい心細い気が致します。

私は自分の愚かさを、どうしてよいかわかりませぬ。そしてまた、どうすることも出来ませぬ。考えることも、思うことも、下らぬ下らぬ愚劣なことばかり。私は虫よりもバカの低能でございます。

先生の御本、なんという楽しい物語の御本でございましょう。急いで読んでしまうのが惜しくて、なにか美しいおいしいお菓子のような気が致します。「永遠の人」は、まだ少しも読み初めてはいませんけれど、なんだかたいへんむずかしそうに思われます。どちらもゆっくり読みとうございます。

ほんとにほんとに有難うございました。今日は御本のお礼のみ。つまらぬおかしなことばかり申上げまして、きっと御不快にお思い遊ばしましょう。何卒私の愚かさをおゆるし下さいませ。

吉岡先生様御許に葉山紀美子

吉岡信一郎は奇異な想いに囚えられた。葉山紀美子がいつしか自分のすぐ側に寄り添ってきている、と同時に、彼女の姿は遠くかすんで消え去ろうとしている、そういう想いなのである。