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ひとつのめばえ
一つの芽生
宮本 百合子
「新日本」1918(大正7)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页
一つの芽生
宮本百合子
この一篇を我が亡弟に捧ぐ
一
もう四五日経つと、父のおともをして私も珍らしく札幌へ行くことになっていたので、九月が末になると、家中の者が寄り集って夕飯後を、賑(にぎ)やかに喋り合うのが毎晩のおきまりになっていた。
その夜も例の通り、晩餐(ばんさん)がすむと皆母を中心に取り囲んで、おかしい話をしてもらっては、いかにも仲よく暮している者達らしい幸福な、門の外まで響き渡るような笑声を立てていた。おいしかった晩餐の満足と、適度な笑いを誘う滑稽の快さで、話しても聞きても、すっかり陽気に活気づいていた。
けれども、その楽しい心持は、暫くして母の注意がフト次弟の顔色に注がれた瞬間から、全く「その瞬間」からすべてが一息に、正反対の方へと転換してしまった。或る人々の言葉を借りていえば、その一瞬間のうちに彼及び私どもの、永久的な運命の別れ目が刻されたのであった。
ニコニコと心に何のこだわりもない微笑を浮べながら、皆自分よりは強そうな息子達の顔を、順繰りに眺めては、即興的な批評を与えていた母は、次弟のところまで来ると、非常に微かではあったが表情を変えた。