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ひとつのめばえ

一つの芽生

宮本 百合子

「新日本」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,627 字 · 29 页

青空文庫

僕どうしたって人間は生れ換るにきまっていると思うもん」

と云いながら涙ぐんだ。

それを思い出すと同時に、私はハッとした。飛んでもない悪いことをしたと思った。

あのとき、なぜあすこで、決してそんなことはないと云って置かなかっただろう。

若し今の「どこへ」という言葉が、それを原因として、彼の臨終を苦しめたあまりに発されたとしたら、自分は一生苦められなければならない。

ほんとになぜあのとき、今生きている通りの心で、犬や馬になることはないのだと断言しなかっただろう。

相すまなく思う。姉でありながら、あまり親切でなかったのを恥じる。

けれども、今、もうこうなっている彼に、その訳を訊こうとしてもそれは不可能である――下らないことである。

どこへ、どこへ、どこへ、どこへ!

言葉が体中を飛びまわるようで、私は瞬間的の眩暈(めまい)を感じた。

今まで気附かなかった一種の臭いがする。

暫く目を瞑って気を鎮めた自分が再び目を開いたとき、彼の呼吸は次第に弱くなって、顔には静かな、安らかな、子供らしい単純さが現われていた。

十一時十七分前。唇の色が褪(あ)せ、白灰色で縁取(へりど)りされた。