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ひとふさのぶどう
一房の葡萄
有島 武郎
「赤い鳥」1920(大正9)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,337 字 · 13 页
が、女の癖に男のように頸の所でぶつりと切った髪の毛を右の手で撫であげながら、いつものとおりのやさしい顔をこちらに向けて、一寸首をかしげただけで何の御用という風をしなさいました。そうするとよく出来る大きな子が前に出て、僕がジムの絵具を取ったことを委しく先生に言いつけました。先生は少し曇った顔付きをして真面目にみんなの顔や、半分泣きかかっている僕の顔を見くらべていなさいましたが、僕に「それは本当ですか。」と聞かれました。本当なんだけれども、僕がそんないやな奴だということをどうしても僕の好きな先生に知られるのがつらかったのです。だから僕は答える代りに本当に泣き出してしまいました。
先生は暫く僕を見つめていましたが、やがて生徒達に向って静かに「もういってもようございます。」といって、みんなをかえしてしまわれました。生徒達は少し物足らなそうにどやどやと下に降りていってしまいました。
先生は少しの間なんとも言わずに、僕の方も向かずに自分の手の爪を見つめていましたが、やがて静かに立って来て、僕の肩の所を抱きすくめるようにして「絵具はもう返しましたか。」と小さな声で仰いました。