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いっぽんのはな

一本の花

宮本 百合子

「改造」1927(昭和2)年12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,709 字 · 55 页

青空文庫

朝子は、

「でも、諸戸さん、一種の性格だな」

と云った。

諸戸は、女房子供を国許に置き、一人東京で家を持っていた。まるで一人暮しなのに、家の小綺麗なことは評判であった。現在彼等で経営主任のようなことをしている、そして将来彼のものになるだろう或る女学校長とは特別な関係で、半ば公然の秘密であったが、諸戸は近来、働き会の方の河合という女といきさつがあった、もう一人そう云う人が働き会の中にある。そんな状態であった。

のほほんで、その河合と連れ立って帰るようなこともするのに、時々川島の場合のようにぶざまな痙攣的臆病を現すのであった。

「気のいいところもある人なんだから、あなた、ただ叱られていずに、ちゃんと自分の立場を明かにして置くといいんですよ」

朝子は川島に云った。

「こちらがしゃんとして出れば、じき折れる人なんだから」

「憤ると、でも怖いですよ」

川島は、いかにも学生らしく、眼を大きくした。

「とてもでかい声で『君!』ってやられると、参っちゃうな。云うことなんか忘れちゃう」

「だから、あなたがそれよりもっとでかい声で『何でありますか!』って云えばいいのよ」

多分、相原の口添えで、川島を罷めさせることは中止になったらしいと云うことだった。