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いちぐう
一隅
宮本 百合子
「作楽」お茶の水附属高女同窓会会報第三十九号、1927(昭和2)年12月7日発行
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,258 字 · 5 页
洋傘だけを置いて荷物を見にプラットフォームへ出ていた間に、児供づれの女が前の座席へ来た。反対の側へ移って、包みを網棚にのせ、空気枕を膨らましていると、
「ああ、ああ、いそいじゃった!」
袋と洋傘を一ツの手に掴んだ肥った婆さんが遽しく乗り込んで来た。
「早くかけとしまいよ、ばあや、そら、そこがあいてるわよ、かけちゃいさえすればいいから……よ」
プラットフォームに立って送りに来た二十七の町方の女が頻りに世話を焼いた。
「ああここにしようね――御免なさい」
前の座席には小官吏らしい男が一人いるだけであったが、三等の狭い一ツの席に肥った私、更に肥った婆さんが押し並ぶのには苦笑した。十一時四十分上野発仙台行の列車で大して混んでいず、もっと後ろに沢山ゆとりはあるのだ。婆さんの連れは然し、
「戸に近い方がいいものね、ばあや、洋傘置いちゃうといいわ、いそいでお座りよ。上へのっかっちゃってさ」
窓から覗き込んで指図する。婆さんは、けれども矢張り洋傘を掴んだまま、汚れた手拭で顔を拭いた。
「降りゃしないかね、これで彼方へつくのはどうしたって日暮れだ」
「大丈夫だよ、俥でおいでね、くたぶれちゃうよ。