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いちぐう

一隅

宮本 百合子

「作楽」お茶の水附属高女同窓会会報第三十九号、1927(昭和2)年12月7日発行

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,258 字 · 5 页

青空文庫

反射的にひょいひょいいろいろ云う。ちっとも語調に真情がない、――

軈て発車した。

私は眠い。一昨日那須温泉から帰って来、昨日一日買いものその他に歩き廻って又戻って行こうとしているのだから。それに窓外の風景もまだ平凡だ。僅かとろりとした時、隣りの婆さんが、後の男に呼びかけた。

「あのう――白岡はまだよっぽど先でござんしょうか」

「まだ四ツ五ツ先ですよ」

「大宮からよっぽど先でござんしょうか」

「大宮から蓮田、白岡です」

「そうでございますか」

そして、女性的本能の残留らしい媚をふくんだ調子で婆さんはつづけた。

「始めてだもんですから。どうも一向勝手が判りませんでねえ――あのう、すみませんが白岡へ参りましたら一寸教えて下さいませんか」

「私は手前で降りるんですが」

「へえ……」

婆さんは露骨に骨折損をしたという表情をその声に現して、此方へ向きなおった。小さい引つめ束髪に結った彼女の髷は、もう幾日櫛をとおさないか。謂わばまあ埃と毛髪のこね物なのだが、そこへ、二本妻楊子がさしてある。

蕨を出て程なく婆さんは、私に訊いた。

「大宮はまだでしょうか」

「この次浦和でしょう? 次が与野、大宮です。