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おもと
万年青
矢田 津世子
「婦人日本」毎日新聞社、1942(昭和17)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,043 字 · 13 页
隠居が自分の食べる分をしまっておいて、こうしてこっそりと呉れたがるのは、子供の時からの慣わしだったと、良人は、やはり懐かしかった。
昼食は、福子の心をこめた手料理だった。
「こりゃ、うまい、うまい。」
隠居は、あちこちへ箸をのばしては喜んだ。自分の口には、福子の味つけが一とう合うと云って、眼を細めて喜ぶのだった。
「隠居さんには、これに限るよ、ゴテゴテ並べられたって、そうそう食べられたもんじゃあない。こういう野菜料理が一とうなんだよ。」
くりかえし、こう云うのだった。
良人は、会社の同僚が永年かかっている漢方医の話をきかせた。元来、病弱なその同僚も、近頃は肥えてしんから健康になったと自分事のように自慢してきかせた。
「なんでも、日本人の体質には、動物性の滋養よりも植物性の滋養のほうが適するんだそうですよ。どうも僕たちも知らず知らずのうちに脂肪の強い物ばかり摂りすぎていたんですね。」
「野菜に限るよお前。」
隠居は、満足そうにこう云って頷いた。隠居には、その漢方医の話が殊のほか気に入ったらしかった。
食事がすんで、福子は年寄りに引き添うて庭に出た。小さな庭だったけれど、福子の丹誠で草花の緑りの芽も、もう出ていた。