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おもと

万年青

矢田 津世子

「婦人日本」毎日新聞社、1942(昭和17)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,043 字 · 13 页

青空文庫

「お羨やましいことですよ。前世から持ってきなすった福運なんですからね。」

聞き手は、隠居のいかにも仕合せそうなにこやかな面差しを見て自分もやはり仕合せな気がするのだった。

福子は、そのような隠居を見ていると、何がなし哀しくなってくるのだった。みんなの心遣いを喜んで受けている隠居が、何か、その心遣いを無理強いされているように見えてならない。隠居が喜べば喜ぶほど、哀しい気がした。

「福子さん。あなたって、笑っているばかりが能なのね。少しは、おばあさまのことをしてあげたらどうなの。」

姑からこんな優しい注意をうけたりした。

福子は、びっくりして、丸い眼を見張って姑を見あげた。

「どんなことをしておあげしたらいいでしょう、お母さま。」

「そりゃ、あなた。お姉さまがたのなさることを見ていらっしったら、わかるでしょう。おばあさまの御機嫌をとらないで、あなたも暢気な人ね。」

姑は親身な顔でこう言った。そのように暢気な福子を、いじらしく思っているふうだった。

「福子さんて、ほんとうにお嬢さんねえ。」

と、ほかの嫁たちは噂しあった。世間のことなどまだ分らないほどの子供なのだ、笑っているばかりが取り柄なのだろうと、軽くしか考えなかった。