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さんじゅっさい
三十歳
「文学界 第二巻第五号」1948(昭和23)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 页
あの人と女流作家のOさんは友人以上に愛人であった。あの人と私のことが判ると、Oさんは自殺するであろう、というのだ。もとより私はそんな言葉は信じていない。
私は時計塔の殺風景な三畳に、非常に部屋に不似合いに坐っている常識的で根は良妻型の有名な女流作家を見て見ぬようにヒソヒソと見すくめている。
この女流作家が怖れているのは、私の別れた女への義理人情や、同性愛の愛人へのイタワリなどである筈はない。
この女流作家の凡庸な良識が最も怖れているのは、私の貧困、私の無能力ということなのだ。殺風景なこの時計塔と、そこに猿のように住む私の現実を怖れているのだ。
彼女は私の才能をあるいは信じているかも知れぬ。又、宿命的な何かによって、狂気にちかい恋心をたしかに私にいだいているかも知れない。
然し、彼女をひきとめている力がある。彼女の真実の眼も心も、私のすむこの現実に定着して、それが実際の評価の規準となっている。彼女は叫んだ。
「私は女流作家然とみすぼらしい虚名なんかに安んじて、日本なんかに、オダテラレ、甘やかされて、いゝ気になっていたいなどゝ思ってはいないんです」
そして、日本も、又、すべてのものを捨てゝ、満洲へ行ってしまいたいのだ、という。