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さんじゅっさい
三十歳
「文学界 第二巻第五号」1948(昭和23)年5月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,211 字 · 32 页
である。つまり、人間を狂気にするものは、人間の不純さであるかも知れぬ、というワケになろう。
然し、狂気の恋愛は、純粋なものと思われ易い。私とても、それを一応純粋なものと思うのは普通であり、すくなくとも、その狂的な劇しさに於て、これを純粋とよぶことは有りうべきことである。つまり情熱のみの問題としては、一応純粋と言うべきであろう。
我々は概ね七八歳前後の幼年期に、年長の婦人に強い思慕をよせがちであるが、これは動物的なもので、だからそのために神経衰弱になるような人間的性格をともなわないものである。
成年の恋愛は人間のものである。情熱の高さのみが純粋であっても、人間が、純粋である筈はあり得ない。
私は然し、当時に於ては、情熱が高ければ純粋なものだ、という考え方を捨てるだけの経験がなかった。だから自己の不純さについて多くの苦しみを重ねもしたし、反面、情熱の高さ劇しさに依存して、それを一途にまもることにも苦心した。その一々を思いだしてみることは、何の役にも立たないだろう。
今さら矢田津世子に再会したことがいけなかったのだ。私はあの人に会いたいと思いつゞけていた。