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さんがつのそらのした
三月の空の下
小川 未明
「民政」1934(昭和9)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,005 字 · 6 页
「あんたは、お医者さまか。」と、老人は、かすかに目を開いてB医師を見て、たずねました。
「そうです、だから、安心なさるがいい。」と、答えてB医師は、自ら老人を抱えて、診察室のベッドの上に横たえて、やわらかなふとんをかけてやりました。
「先生、この人は、助かりましょうか。」と、老人をつれてきた近所の人たちが、ききました。
「わかりません。なにしろ極度に疲れていますから。私は、できるだけの手当てをいたしますが……。」と、B医師は答えました。
その夜、老人は、最後にしんせつな介抱を受けながら死んでゆきました。すこしばかり前、かたわらにあった小さな荷物を指しながら、訴えるように、うなずいて見せたのでした。
夜明け方になって、ついに雨となったのであります。B医師は、老人が身から離さなかった荷物を開けてみました。紙箱の中には、すでに芽を出しかけた、いくつかのすいせんの球根がはいっていました。また、古びた貯金帳といっしょに、なにか書いたものがほかから出てきました。それを見ると、
「私は、親もなければ、兄弟もない一人ぽっちで暮らしてきた。私の一生は、けっして楽なものではなかった。